第2回 『御召緯(ヌキ)』について

 御召緯
こんにちは、宗一郎です。
写真はボビンという木枠とそれに巻いてある白色の御召緯です。

第2回 『御召緯(ヌキ)』について
御召緯とは糊付け強撚糸です。
『糊をつけた糸に強い撚りをいれて、その撚りを維持させている横糸』です。

御召緯の製造工程は
 1 下撚り
 2 半練り
 3 糸染め
 4 糊付け
 5 上撚り
となっています。

【 1 下撚り】
はじめに4、5本の糸を合わせて1mに200回程度の撚糸をします。

【 2 半練り】
絹糸についているセリシンという物質を落とすために精練という作業をします。
このセリシンを落とす事で糸は柔らかくなり光沢が出るのですが、
御召緯の場合は、セリシンを落とし過ぎると後で糊が付きにくくなったり、
糸が柔らかくなって上撚りの際に糸が切れてしまうために
通常とは異なり、セリシンを半分程度残すようにします。

【 3 糸染め】
通常の先染織物で使用する糸と異なり、上撚りの前に糸染めを行います。
半練りによってセリシンが残っているために、通常の糸と染めやすさが異なります。
更に上撚りの段階で多くの回数の撚糸を行うと、糸は太く短くなり、色が濃くなります。
そのためにこの工程で染めた色と御召緯の完成後の色は随分と異なってしまいます。

御召緯は思い通りの色を染めることが難しく、染めむらが出やすいために、
基本的に黒と白の二種類のみが作られています。

【 4 糊付け】
複数種類の糊を溶かした桶に糸を漬け込み糸に糊をつけます。

【 5 上撚り】
そうやって出来た糸に八丁撚糸機を使用して1mに3000回という撚りをいれます。
絹糸の撚糸回数ではもっとも多い糸の一つであります。
上撚りの際には、糸に水をかけながら撚糸を行うことで糊分を戻して、
3000回の撚りが反対方向に戻らないよう抑えます。  
速い速度で撚糸を行うと糸が切れてしまうために、速度には限度があり、
ボビン一つに約50gの御召緯が巻かれていますが、50gの撚糸におよそ3日間かかります。

【製織から製品が出来るまで】
上記の工程により右巻きと左巻きの2種類の御召緯を作ります。
撚糸の方向で、撚った筋の向きが変わるため、
右巻きの事をS巻き、左巻きのことをZ巻きとも言います。
巻き
一番上の写真のボビンに「右」「左」と書かれているのは、この区別をするためです。
製織時には左右の御召緯を緯糸(よこいと)として使用します。
織り上がった生地を『湯のし』という工程で、
ぬるま湯の中で揉んで、御召緯の糊を溶かしてやると、
撚りを戻そうとする力は生地を縮めるに変り、「しぼ」と呼ばれる細かい隆起を生み出します。

御召緯は普通の糸と比べると製造工程が多く、アクシデントの原因にもなりやすい糸です。
金糸のように柄を表現する糸と異なり、風合いを作るための糸なので、
柄の部分だけでなく、織り始めから織り終わりまで使用する必要があります。
木屋太で作っている風通御召の着物では御召緯は250g程、使用しています。
また独自で糸染めをして御召緯の色も揃えています。
複雑な糸ですが、その特徴を理解して使えば面白い糸でもあります。

次回は御召緯を使った織物について、その特徴や僕の想いを書きたいと思います。

第1回 様々な『御召』について

七宝
こんばんは、宗一郎です。
写真は今春用の御召着尺です。

『御召』って言葉は耳にするようになったけど、御召っていったい何?
最近、多くの人が困惑していて、また知りたがっていらっしゃることに気づかされました。
なので何回かに分けて、御召解説に挑戦したいと思います。
あくまで概要なので例外もあります。


第1回 様々な『御召』について

はじめに御召という言葉は一般的な単語になるので、
商標として登録することや、厳密な言葉の意味を定義することは不可能です。
なので『御召』は現在色々な意味で使われています。

A 右巻き、左巻きの御召緯(ヌキ)を交互に使って風合いを作っている織物のこと。
B 徳川11代将軍家斉が愛用したことに由来する『先染めの縮緬』
C 紬以外の先染めの織物
D 『御召機の証』の添付のある製品
以上が京都の西陣地区から見る『御召』の大まかなパターンです。
ただし、固有名詞でも商標でもないため、なんでも御召って言い切ることは可能です。
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右巻き、左巻きの御召緯(ヌキ)とよばれる強撚糸を交互に使って風合いを作る織物のこと。
製造現場や古くから御召緯やそれを使った製品に携わる人はAの事を御召とよんでいます。
今河織物においてもこれが御召の定義であります。
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御召という言葉は徳川11代将軍家斉が愛用したことに由来します。
将軍が特定の柄の先染めの縮緬を、自分以外の人間が着用することを禁じました。
そのことから先染めの縮緬を御召と呼ぶようになり、
江戸時代の裕福な町人の間で重宝されました。
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C、D
大正時代には西陣の織屋からフランスへ使節を派遣して、ジャガードを導入することになります。
このジャガードのおかげで製織の際の手間が減り、織技術は飛躍的に向上しました。
手間が減ったことにより、今までの限られた人々だけでなく、一般の人々にも、
染物でもない、紬でもない、新しい先染めの縮緬として御召は流行ります。
この流行により京都の着物屋のほとんどが御召緯を使った製品を作り、
彼らのことを御召屋とよぶこともあり、
御召屋の製品は御召緯の使用の有無にかかわらず、全て御召とよばれることもありました。

現在、西陣の着物屋の証紙として『御召機の証』があります。
これが添付されているものを御召とよぶ場合もあります。
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もともと、フォーマルほど堅苦しくもなく、カジュアル過ぎず、
今日はオシャレを楽しみたいというのが御召の主な用途であったと思います。

今の時代、御召という言葉が必要以上に訴求力のある言葉になってしまいました。
残念ながらここに書いている事を理解されずに、混乱してしまう小売店や消費者が多いです。
御召緯を使っていない製品を使っている製品と間違えてしまった小売り現場の話も耳にします。

このように『御召』には色々な定義がありますが、
購入の際に『御召』だから気に入ったのではなく、
気に入ったきものが『御召』だったであって欲しいな。
というのが、僕や家族の願いであります。

丁寧に書くことを心がけたのですが、長文で読みにくくなりすみませんでした。
今後は、御召緯について、御召緯を使った織物の特徴について書こうと思います。

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